そのおにぎりにサンドイッチを包んでいるアルミホイル、または小銭入れの中で大量に残る1円玉……。これらは化学元素でいうところのAl、つまりアルミニウムのことを言います。
私たちにとって何の変哲もないアルミニウムですが、実は魔法の金属と揶揄され、そして金よりも高いと評価された歴史があることをご存知でしょうか?今回はなかなか想像できないアルミニウムジュエリーのお話をしていきたいと思います。
貴金属?卑金属?アルミニウムで作られたジュエリーとは?
身の回りを見渡してみましょう。缶コーヒー、アルミサッシ、意識しなくても私たちの身近にはアルミニウム素材がそこかしこに存在しています。アルミニウムを高価な貴金属と認識している方は流石にいないと思いますが、実は今から150年以上前のヴィクトリアン期において、それは金よりも価値が高い金属として知られていたのです。
まさかのアルミニウムの貴金属化?!ここでは宝飾史に見るアルミニウムの存在価値について解説していきたいと思います。
ジュエリー素材としてのアルミニウム
ナポレオン3世がアルミニウムの価値に驚嘆し、オールアルミニウム製のカラトリーを注文し、上客をもてなしたというお話が残っているのをご存知ですか?
皇帝ナポレオンがアルミサッシと同じ素材のナイフにフォークで、ビフテキを切り分けていたと考えると、なんだか滑稽に見えますね。アルミニウムの化合物は非常に安定した物質である為、単体としてのアルミニウム抽出が大変難しく、1850年以前は金以上に価値のある金属として認知されていたのです。
フランスの科学者であるHenri Etienne Sainte-Claire Devilleがより効率的な方法で1840年代にアルミニウムを抽出して以来、その白く軽い金属の有能性が非常に高い評価を受けます。19世紀に未知の素材であったプラチナにスポットライトが当たったのと同様に、1850年代からアルミニウムが金銀同様にジュエリーの地銀素材として人気を博したのです。
1キロ当たり3000フランを超える金額で取引されるようになったアルミニウムですが、その抽出方法が劇的に向上し、1880年代にはその価値を急激に下げるまで、その時期は限られますが多くのアルミニウムジュエリーが作られていきました。
富裕層のアルミニウムジュエリー
初めてアルミニウムが登場したのは1855年パリの万国博覧会で、そこでアルミニウムの美しさにハッとしたナポレオン3世がその虜になったと言われています。アルミニウムが実験的にジュエリーや工芸分野に取り入れられた時期こそ約30~50年程度ですが、確認されるものでバングル、リング、カメオの枠、扇、ブローチ、武具に玩具など様々……。
ダイヤモンドやガーネット、エメラルドなどと共に加工されたアルミニウムもあれば、ジェットと組み合わされいわゆるモーニングジュエリーとして利用されたものも少なくありません。
アンティークジュエリーの中でも卑金属としてカットスティール(鉄)やピンチベックなどの銅合金が多く見られますが、アルミニウムはそれが加工された時期がより限局されている為、市場でもあまり見かけることがない非常にレアなジュエリーと言えます。
シルバー以上に白く美しいそのカラーはゴールドとの相性が非常によく、細やかな彫金を施された最高級のアルミニウムジュエリーは、ロンドンのヴィクトリアン&アルバート博物館など世界の主要博物館に所蔵されているのです。
なぜアルミニウム?アルミをジュエリー素材に使うメリット・デメリット
アルミニウムがジュエリー素材として人気を集めた、そんな事実はアルミニウムイコール1円玉の固定概念が抜けきらない私たちにとっては意外かもしれません。
ここではあらためて、アルミニウムの金属としての特徴を考えてみたいと思います。あなたはその長所、短所を踏まえて、アルミニウムジュエリー肯定派、それとも否定派ですか?
アルミニウムジュエリーのメリット
アルミニウムは酸素による酸化被膜を作り腐食しにくい特質がある為、汗などによりイオン化することで起こる金属アレルギーが比較的起こりにくいと言われています。様々なオプションがある中でアルミニウムをジュエリーの地銀素材として選ぶ方は少ないと思いますが、この金属アレルギーを引き起こす可能性の低さは一つのメリットと言えるでしょう。
またアルミニウムは19世紀と異なり貴金属ではなく卑金属であり、なおかつレアメタルではない為、非常に安価な点も魅力的です。
アルミニウムジュエリーのデメリット
デメリットとして考えられる点は、まずアルミニウムという金属に一切の資産価値がないことが挙げられます。ゴールドやプラチナなどの貴金属であれば、いざとなれば売却することもできる、そんな持ち運びできる財産として機能しますが、アルミニウムに財産価値を期待してはなりません。
因みにアルミニウムは1キロあたり約240~290円、プラチナは1gあたり約3000円、ゴールドの場合は1g5000円超えで取引されており、いかにアルミニウムに資産価値がないかは一目瞭然です。
ただし19世紀中頃、アルミニウムが高価だった時期に作られたジュエリーや工芸品はその素材価値は低くとも、宝飾芸術としての価値は非常に高く、数千~数万ユーロで取引される物も少なくありません。。
アルミニウムジュエリーの今を見てみよう
アルミニウムの抽出が成功し、短いアルミニウムの流行を見せた後、20世紀初頭には既にアルミニウムは宝飾品分野に応用されることはほとんどなくなりました。しかしやっぱり気になるのが、そんなアルミニウムの今……。
ここでは現代で見られるジュエリーとしてのアルミニウムに着目してみたいと思います。
アルマイト処理を施したカジュアルアイテムが人気!
アルミニウムはアルマイト加工を施すことで、赤、青、紫、緑、オレンジなどの色鮮やかな表面加工を施すことができるので、脱スタンダードのジュエリーを楽しめます。
特にアルミニウム製のリングは、その軽さ、そして遊びココロ溢れるカラーリングが特に若い男女に大人気!決してエクスクルージブなジュエリーではありませんが、カジュアルな指先のアクセサリーとしては十分お洒落を実感できる点、そして指輪に抵抗を感じがちなメンズにも着用しやすいこともあり人気を集めているのです。
オリジナリティー>素材価値の結婚指輪として
アルミニウム合金を利用した結婚指輪もジワジワと人気を集めています。基本的にアルミニウム素材のリングは、いわゆる結婚指輪の試作品として作られることが多いようです。その中でも、あえてアルミニウム製の結婚指輪を選ぶ方も少ないながらも点在しています。
表面加工による美しい酸化被膜が指先に見せる存在感は唯一無二であり、なおかつ他の金属に比べて圧倒的に値段を抑えられる、それがアルミニウムの結婚指輪を選ぶ大きなメリットでしょうか。
ただし小売店、メーカーも通常はアルミニウム製の結婚指輪を取り扱っているところはほぼ皆無なので、必然的にレアメタルに強い工房、職人さんにオーダーメイドの形で発注する必要があります。
その際は数か月の納期がかかること、そしてアルミニウム合金は通常サイズ変更ができないということをキチンと頭に入れてから、リング制作を行いましょう。
まとめ
今回はアルミニウムのジュエリーについて解説していきました。1円玉に代表される卑金属が、まさかあのナポレオン三世の愛した金属だったなんて驚きですね。
オンラインで購入できるのはカジュアルなデザインのアルミニウムリングがメインですが、本物のアルミニウムアンティークジュエリーは、チープな素材を感じさせない圧倒的な優美さを誇ります。
たかがアルミニウム、されどアルミニウム、その素材価値だけでは測れない内なる美しさは、アルミニウムに対する固定概念を覆すはずです。ぜひ機会があればロンドンのヴィクトリアン&アルバート博物館で、最高傑作のアルミニウムジュエリーを観覧してみてくださいね!
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