世界で一番有名で、一番麗しく嫌われている王妃、それこそがマリーアントワネット。フランス王家を滅亡へと導いた、ジュエリーに愛された絶世の美白王妃マリーアントワネット、今回はそんな彼女のジュエリー遍歴と、話題を振りまいたあの宝物のニュースをお話したいと思います。

フランス王妃マリーアントワネット、最高に贅沢なジュエリー遍歴とは?

ジュエリーの歴史を楽しむには、その主な顧客であった王侯貴族を知ることが非常に有益です。今回は散財の女神であり、フランス屈指の美白王妃といわれるマリーアントワネットのジュエリーライフに迫ってみたいと思います。(実はあまり美しいルックスではなかったといいますが!)

思わずため息をついてしまう、そんなフランス王妃の贅沢な毎日とフランスのジュエリー史、今回は優雅にアフターヌーンティーを楽しみながらコラムを読んでいただければ幸いです。

王妃のお気に入りはダイヤモンドとアクアマリン

オーストリア大公妃マリア・テレジアの愛娘、マリーアントワネット。政略結婚の末、フランスのルイ16世に嫁いだ悲劇の王妃。どんなに歴史に疎い方でも、散財を重ね、「パンがないなら、お菓子を食べればいいじゃない!」という名言を残し、フランス革命の断頭台に消えたことはご存知だと思います。

王太子妃として何不自由なくパリの宮廷で過ごしていた彼女は、ファッションにジュエリーが大好物の典型的な宮廷っ子でした。わずか14歳で見知らぬパリの宮廷に嫁いだ彼女にとって、髪型、ドレスそしてジュエリーは格好のストレス解消になっていったのです。

お抱えジュエラーバプストに豪華絢爛なジュエリーを作らせ、ダイヤモンドや色石をふんだんに使用したリング、首飾り、パリュールなどを楽しむ。そんな彼女が愛した宝石は、定番のダイヤモンドのほかに、半輝石の中ではまさかのアクアマリンに恋焦がれたと伝わっています。

ルビーやエメラルド、サファイアに比べると、いまいち影が薄い色石。「幸福」、「富」などが石言葉のアクアマリンは、どちらかというとパワーストーンやカジュアルなアクセサリーに使われる印象が強いかもしれません。

確かに彼女の出自、人生は富であふれていましたが、彼女の生き抜いた人生を見る限り、愛したアクアマリンの石言葉通り、その人生を幸せに導いてくれなかったことに皮肉を感じてしまいますね!

夜は舞踏会、朝は泥遊び、時間に合わせて楽しむのが時代の流行!?

彼女が生きた時代はいかに自身を優雅に見せ、そして宮廷の女性として恥ずかしくない格好をすることが徹底されていました。つまり昼はビロードやフリルを付けたモスリン(木綿や羊毛で織られた薄地の織物のこと)などを着用し、夜になると舞踏会にピッタリの豪奢なドレスと、TPOに合わせた服装、そしてジュエリー着用が求められたのです。

18世紀にも現代のVIVIだとかヴァンサンカンのような、レディースファッション雑誌が出版されており、その都度流行しているモードのジュエリーを逐一紹介しています。今週号は涙型のパールイヤリング着用をオススメしてみたり、次号ではイヤリングなどは付けてはならぬなど、パリにおけるジュエリーのモードは大変敏感に変化していったのです。

しかし共通して言えるのは、昼間と夜用のジュエリーに関して、明確な区別がされていたこと。つまり昼間に懐中時計とそれを腰から吊るすためのシャトレーヌと呼ばれる鎖、ベルトのバックルや、ガーネット、真珠やサンゴなどを使ったジュエリーが多用されました。

夜間は特にまばゆい輝きを放つダイヤモンドやエメラルド、ルビーなどのパリュールが大活躍し、時にペーストと呼ばれるガラス石やカットスティールなども使われました。

これら18世紀のジュエリーを最も簡単に知る方法は当時の肖像画をみることですが、マリーアントワネットの肖像画は、当時の人気女流画家ヴィジェ・ルブランによって多く描かれているので、ジグソーパズル感覚で彼女がどんなジュエリーを身に着けているのか探してみるのも面白いですね!

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ジュエリーが王妃を破滅に追い込んだ?!マリーアントワネットの首飾り事件

1700年代のジュエリーは前述のパリュール、シャトレーヌだけでなく、胸飾りであるストマッカー、コサージュや髪に飾るアクセサリーなどがあげられます。

このロココと呼ばれる時代には、庭園の動植物をデザインしたものやリボン型のジュエリーが多くみられます。マリーアントワネットのジュエリーの中でも、野ばらと山査子をデザインしたジュエリーはその典型といえるでしょう。

ジュエリーにも、繊細で複雑なデザインが表現されるようになった18世紀の中で、マリーアントワネットのジュエリーは最先端の流行を生むことがある一方、大きな事件性をはらむこともしばしば。

特に有名な事件がいわゆる、「王妃の首飾り事件」と呼ばれるもの。簡単に説明すると、ルイ15世がデュ・バリー夫人のためにつくらせたダイヤモンドネックレスで、ルイ15世が完成を見届けることなく亡くなったため、ルイ16世が購入する運びに。しかしあまりの高価さに購入を断念し、そこから枢機卿を巻き込んだジュエリーの詐欺事件にまで発展し、ネックレスが盗まれてしまうというお話しです。

残されているデザイン画を見る限り、ダイヤモンド計540個を贅沢に利用した、まるでダイヤのお化けのようなデザインは、いかにもフランス王室が好みそうなスタイル。ちなみにこのネックレスは、新たなルースと地銀の再利用のために解体され、現在はそのデザイン画とレプリカのみが伝わっています。

結局マリーアントワネットは、詐欺事件の被害者であり支払いもサラッと拒否したものの、国民にこのスキャンダルが広まり、彼女の評価はがた落ち。散財の王妃が自分たちの生活を追い込んでいると記憶され、のちに起こるフランス革命の序章へと繋がっていくのでした。

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マリーアントワネットのジュエリーがサザビーズに堂々登場!歴史を揺るがす落札価格に仰天!

アンティークジュエリーというものは、その宝石としての価値だけでなく、どれだけの歴史を誇っているのか?また誰が所有していたのかで、大きな付加価値が付随することがあります。

特に歴史の名を残す英雄や王室メンバー所有ともなれば、それは著名オークションの目玉商品となり、宝飾業界にホットな話題を振りまくのです。マリーアントワネットのジュエリーが市場に出ることはほとんどありませんが、ここでは2018年11月に落札された、世紀の大発見!と言うべき彼女のジュエリーをご紹介したいと思います。

マリーアントワネットのジュエリーを含むブルボン王家の至宝が競売へ!

そのオークションはスイスのブルボン・パルマ邸で行われました。サザビーズによって開催されたこのオークションは、フランスのシャルル10世、オーストリア大公、そしてブルボン・パルマ公が所有してきたジュエリーのコレクションを一同に集めた特別なもの。

通常まとまった数のロイヤルジュエリーが、オークションにかけられることはほとんどありません。またマリーアントワネットが所有していたジュエリーが、200年の月日を経て、初めて日の目を見たというセンセーショナルなオークションとして大きな話題を呼びました。

ブルボン・パルマ王家所有のジュエリーがこれだけの数オークションにかけられる、その凄みはいまいちピンときませんが、つまり日本の皇室だとかイギリス王室のコレクションがドドンとオークションに出品される!と考えると、その凄さを実感できるかもしれません。

因みにこのコレクションは、フランス脱出を図ったヴァレンヌ事件に先立ち、マリーアントワネットが実家のあるオーストリアを統治する甥、フランツ2世に送ったジュエリーコレクションの一部。唯一の生き形見である娘のマリーテレーズがそれらを相続し、長年パルマ侯爵家に伝わってきたものです。

フランスではスイスのオークション開催、そして国宝とも呼べる宝飾品の国外流失に大きな関心が寄せられましたが、結局のところフランス政府はオークション開催を中止することも、資金を用意することもできずに、予定通り素晴らしきコレクションが市場に開放されたのでした。

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もはや卒倒レベル!マリーアントワネットの豪華ジュエリー、気になる落札額は?

今世紀世界で一番重要なロイヤルジュエリーと形容されたオークションの中身は、ブルボン王家の勲章、スティックピン、宝石箱、シガレットケース、ボタンに懐中時計などの小物から、ダイヤモンド、パールジュエリーなど計100点。

これらはロンドン、ドバイ、ニューヨーク、香港などの主要都市で巡回展示ののちに、ジュネーブでオークションが開催されました。

サザビーズのこのオークションに対しての並々ならぬ情熱と力の入れ具合にひれ伏しながらも、さすがはブルボン王家のコレクション。カタログを見るだけでも、身震いが止まりません!(現在もカタログと落札結果はホームページで確認できます。)

ブルボン王家所有=すべてがマリーアントワネット由来のジュエリーではありませんが、特に注目を集めたのは、リボン型にあしらったダイヤモンドの下に涙型のパールがぶら下がるペンダント。

またナチュラルパールのイヤリング、2点のネックレス、そしてダイヤモンドのリボン型ブローチの計5点も、マリーアントワネット由来のジュエリーです。このほかにもマリーアントワネットのイニシャルが刻まれた指輪には、彼女自身の髪の毛が編み込まれている特殊な作りとなっており、オークションの中でも異彩を放つ1品として注目を集めました。

気になる落札結果は、100点合わせて53,522,875CHFという前代未聞の数字!日本円に換算するとゆうに60億をこえ、最高落札額を記録したのは前述のダイヤモンドをリボン型にあしらったパールペンダントの36,427,000 CHF(約41億円)で、民間のコレクターに落札されたそうです。

ちなみにこのパールペンダントの落札予想価格は1,000,000 から1,990,000CHFほどでしたが、天然真珠の価格高騰そしてマリーアントワネットのコレクションという事実が、落札価格を底上げした要因と考えられています。

今後いつマリーアントワネットに関連するジュエリーコレクションがオークションに登場するかは未知数ですが、もしまた機会が訪れるとするのなら、オークションに参加せずとも、ぜひ巡回展でそれらの輝きをこの目に焼き付けてみたいものですね!

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まとめ

人はしばし歴史というロマンに酔いたがる生き物。断頭台に消えたマリーアントワネットが身に着けたジュエリーを追ってみたら、こんな面白いお宝ヒストリーが出てきました。

今回開催されたオークション結果からもわかる通り、やはりマリーアントワネットのジュエリー、想像以上の品質とデザイン、そして落札価格でした。
彼女のジュエリーを購入できる方は限られますが、同時代のアンティークジュエリーを愛でながら、断頭台に消えた彼女とその人生を偲ぶのも、なかなか粋なジュエリーの楽しみ方かもしれませんね。