「あのお局社員に毒を盛ってやりたい!」、「浮気した彼氏を懲らしめる為に、サクッとポイズンをばら撒きたい!」

そんな刺激的な妄想に駆られる女性も、少なくないと思います。実際に毒を盛ったら犯罪ですが、実はサクッと毒を盛れて、バレたらパパッと自害ができるジュエリーがあるのです。今回は宝飾史を紐解きながら、埋もれた知的好奇心を刺激するポイズンリングの実態と真実に迫ってみたいと思います。

ポイズンリングの歴史について!本当に毒を入れたの?

Poison Ring

ポイズンリングを簡単に説明すると、ベゼル部分がパカリと開閉可能になっているリングのことを指します。つまりロケットペンダントのように、リングの内部に何かを仕込める仕掛けが施された、非常に面白味のあるリングなのです。

その歴史については意外に面白い事実があるので、まずはポイズンリングが歩んだその軌跡について見てみたいと思います。

ポイズンリングはいつの時代にどんな目的で作られた?

ポイズンリング……ファンタジーなRPGにも出てきそうな、不思議でファンシーな雰囲気溢れるネーミング。個人的に指輪に隠された血生臭い歴史だとか、それが作られた時代背景を想像するだけで、白米を何杯でも食べれてしまいそうです!

まずポイズンリングの名称ですが、これまた用途や国によっても異なり、ピルボックス、ボックスリング、ロケットリングなどがその主な例です。ネーミングは異なれど、リングのベゼル部分が開閉できる構造は共通しています。

ポイズンリング自体の歴史は非常に古く、流行しだしたのは16世紀以降ですが、古代のインド~中東地域にも起源を辿ることができます。つまりダイヤモンドと同じくしてインドから古代ギリシャ、ローマへと渡ったのですね。

ポイズンリングの用途と毒の盛り方は時代時代で異なりますが、長い宝飾史の中では、毒を盛ることよりも、絶対絶命の危機に備えて、自害するという目的で使われることも多々ありました。諸説ありますが「博物誌」で知られる大プリニウスは拷問を回避するために、ある種の貝でできたポイズンリングのベゼル部分をかじって、自害したなどという説も残っています。

古代から中世、そしてルネサンス、ジョージアン、ヴィクトリアンを経て、それぞれのモード、風俗に合わせたポイズンリングが作られましたが、自分を着飾る装飾性プラス死という不吉な要素が付加することで、言いようのない不安や心の高鳴りを感じることができるのです。

因みにマリーアントワネットはロッククリスタルと金線細工で作られたロケットペンダントを所持していたと言われますが、もしそこに毒が仕込まれていたのなら、断頭台のギロチンは避けられたのかも……など勝手な妄想が膨らんでしまいます。

毒殺してやったり!ポクリと毒を盛った華麗なる偉人たち

まずポイズンリングを語る上で一番気になることは、本当に歴史上ポイズンリングで誰かを死に至らしめたかということです。こればかりは確かな確証はありませんが、後世に伝わる言い伝えとして2つの事例が残っています。

1つは絶世の美女と謳われたイタリアのルクレチア・ボルジア(1480~1519)です。教皇アレクサンドル6世の娘であるルクレチアは、ポイズンリングの絶大な支持者であり、しばしボルジア家が主催するパーティーで政治的なライバル関係にあるものを、片っ端から毒殺したという噂が囁かれています。通称毒殺の母ルクレチアとも揶揄されているのです。

彼女が所持していたポイズンリングは現代に伝わっていませんが、その毒殺に関しては、なかなか上手くことが運ばなかったとも伝えられています。例え数滴の毒だとしても、非常に不快感のある味になってしまう点、そしてあまり実用的とは言えなかったリングの形状自体が毒殺を難しくしたのでしょう。

もう1つの興味深いケースは、14世紀の東欧ブルガリア貴族のドブロティーサとその息子イヴァンコによる毒殺劇。ドロブジャ地域を支配していた彼らが、対向する有力貴族をカリアクラ城塞で殺害する為に、ポイズンリングを使ったと伝えられています。

奇遇なことに2013年にはカイアクラ近くのカペ・カイアクラ地区でゴールド、パールジュエリーと共にブロンズ製のポイズンリングが発見され、ドブロティーサが使用したものではないかと言われています!このブロンズ製リングは明らかに酸化しきっていますが、ベゼルに蓋があるタイプではなく、穴が無造作に開けられそこに毒物を仕込み、飲食物にダイレクトに毒を混入できる右手用のリングだということが分かっています。

Bulagaria

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ポイズンリングはセンチメンタルジュエリーだった!?

ポイズンリングの用途は血生臭いものばかりではなく、なかなかロマンチックなものも少なくありません。喪に服する時期にもポイズンリングはしばし用いられ、ベゼル部分に在りし日の愛する人の肖像で飾り、ベゼル内部には遺髪、歯、骨など忍ばせ、いつまでも故人を感じられるように愛用されていました。なおミニチュアの肖像でベゼルが飾られるのは、15世紀以降になります。

現代ではさすがに乳歯だとか小指の骨をベゼルに……というモーニングリングは少ないですが、遺髪、骨から作られるダイヤモンドで故人を偲ぶのと同じ感覚だったのでしょうね。

この他にもある種の聖遺物を中に入れることで、病気や災難から身を守る手段としても用いられました。勿論この種の魔術的要素は宝飾史を語る上で外せないトピックで、マジカルな働きがあると考えられた宝石と共に、中世~ルネサンス時代の人々の護符的役割を果たしてきたのです。さながら現代におけるパワーストーン的な効能も、ポイズンリングは孕んでいたのでした。

またこれらのセンチメンタルまたはオカルト要素以外にも、しばし政治的な忠誠心を誓う為に、エリザベス1世やチャールズ1世など王侯貴族の肖像を描かせたり、ロケット内部に彫金するケースなども少なくありませんでした。

Elizabeth

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Charles

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モダンジュエリーに見るポイズンリング

ルネサンス期に大きな流行りを見せたポイズンリングではありますが、実は現代のモダンジュエリーでも然りとそのスタイルは受け継がれています。ここでは21世紀に生きる私達にとっての、ポイズンリングの在り方について考えてみましょう。

ヴィヴィアン・ウエストウッドのポイズンリングが大人気!?

今から数年前、世紀の大発見と呼ばれたスタップ細胞騒動が世界を駆け巡りました。その存在の是非を確かめようと、世界中の科学者たちが検証実験に励んでいたのは記憶に新しいところです。割烹着姿に薄い化粧、世界が注目した理系女子のO女史が記者会見で身に着けていたのが、何を隠そうポイズンリングなのでした。

ポイズンリングはその独特なスタイルがゆえ、それほど多くのブランドで頻繁に商品化はされていません。渦中の女史が身に着けていたリングは、モダンジュエリーでも人気が高いヴィヴィアン・ウエストウッドのそれだったのです。

商品名はニューオーブポイズンリングとのことで、ヴィヴィアン特有のオーブの存在感が眩しい、現代版ポイズンリングの代名詞となっています。ただしこの騒動の後にこの奇抜なポイズンリングは若い女性(文系、理系問わず)眉唾物の商品となり、復刻版を再発したくらいの大人気商品となっています。

パカリとオーブを開いて毒を仕込むことは勿論可能ですが、ポイズンリングとしての役割そのものよりも、疑惑の細胞の話題性に振り回されたある意味可哀想なポイズンリングでした。

またブランドは異なりますが、パリのグランサンクの1つであるブシュロンからもシークレットリングの名前で、270のルビーを散りばめた豪華絢爛ポイズンリングが発表されています。もちろん前述のヴィヴィアンとは比較にならない10000ユーロ超えのお値段ですが、気になる方は是非どうぞ!

Vivian

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Boucheron

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Vivian HP

http://www.viviennewestwood-tokyo.com/f/inews-3-424/

21世紀は毒ではなく香水やアロマを仕込んで香りを楽しむ

昨今ヴィンテージ、アンティークジュエリーの造詣が深くなくとも、ポイズンリングの名前自体は聞いたことがあるという方がほとんどなのではないでしょうか?

いかついシルバー製のポイズンリング、大きな輝石がはめ込まれたタイプ、またはインタリオタイプのポイズンリングが多く見受けられますが、実際現代における使い方は毒殺でも自害用でもありません。

手先から感じる淡い匂いを楽しむ為に、アロマオイルや香水を染み込ませた綿を忍ばせたり、はたまたピルケース代わりに使っている方がほとんどです。

時代と共にその使用用途は変わっていきますが、人とは少し違うお洒落を楽しみたい方、アクセントの強いメンズジュエリーをお探しの方にこそオススメできるタイプのリングといえるでしょう。決して本来の目的での利用は推奨できませんが、遊び心満載なジュエリーなので、様々な楽しみ方ができる点は大きな魅力といえますね。

ちょっとばかりジュエリーコレクションにポイズンリングを加えてみようかしら?と思う方は、是非Etsyで「Poison Ring」と検索してみましょう。それこそピンキリの美術館級ジョージアンリングから、手作り感満載のお手軽ポイズンリングをボタン一つで購入出来ます。さあ会食の機会が訪れれば、メンツ次第ではなかなかの大活躍を見せてくれるかもしれませんよ?(もちろん自己責任で!)
Etsy
https://www.etsy.com/market/poison_rings

まとめ

今回は歴史的にも好奇心を刺激してやまないポイズンリングについて、コラムを執筆してみました。素晴らしい質と歴史的価値があるポイズンリングはオークションでもあまり取引はされず、それこそ世界の主要美術館に陳列されているものばかり。

ポイズンリングという名前だけ独り歩きしている印象は隠せませんが、もし本物のポイズンリングを目にする機会または新旧関わらず購入する機会に恵まれたら、是非その歴史の深さそしてそれに刻まれた物語に思いを馳せて愛でて頂ければと思います。