朝と就寝前のスキンケアが異なるように、ジュエリーもTPOに応じて使い分ける必要が出てきます。例えば死者を見送るのに華やかなジュエリーはNGですよね?それと同様に朝・昼用のジュエリーと夜に身に着けるジュエリーを使い分けることで、そのジュエリーの美しさをより楽しむことが出来るのです。
今回は18世紀の宮廷文化におけるジュエリーを通して、ジュエリーの時間帯による使い分けの楽しさをご紹介したいと思います。
アンティークジュエリーに学ぶジュエリーの使い分けのすすめ
その時代時代で、宝石、金属そしてジュエリーが担う役割は異なっています。オシャレの要素が強いジュエリーですが、宝飾史を掘り返してみると、権力の象徴であったり、呪術的な意味合いが込められていました。
大切な人を失った悲しみはMourning Jewelryとして、王座を狙うもの同士の争いでPoison Ringが利用された時代もありました。
その時々の信仰心に風潮が一番よく表れていたのは絵画だと言われますが、ジュエリーに関しても各々の時代背景を覗くのに十分な要素にドラマが詰まっています。まずはジョージアン時代に見る、ジュエリーの特徴を紐解きながら、今回のお話しのキーポイントを探っていきましょう。
18世紀のモードは光と影にあり
18世紀、今から約300年前、この時代のジュエリーは宝飾史を語る上でも外せないキーポイントになってきます。ジュエリーのみならず、絵画にも光と闇、つまり陰と陽のコントラストが非常に重要視されてきたということ。
人々の生活に必要な光源は勿論白熱灯ではなく、蝋燭でした。蝋燭の歴史を辿るとそれはまた長い長い歴史物語になるので省きますが、ランタン、街灯にシャンデリア、ともかく蝋燭の光源なしには生活が成り立たなかったということです。
ジュエリーこそ王侯貴族の為の物でしたが、蝋燭は一般庶民の精神的平静を司るものとしてなくてはならない存在でした。
皆さんもフランスの歴史を勉強した時に、マリーアントワネットが田舎の邸宅をイメージしたカントリーハウスで過ごすことを愛した!という逸話を聞いたことがあると思います。つまり煌びやかで蝋燭の炎が揺らめく宮殿だけでなく、牧歌的尚且つ質素な生活を通して光の重要性によりスポットライトが当たったわけですね。
そんなお金持ち(王侯貴族)の贅沢なカントリーライフから発達したのが、シンプルそしてエクスクルージブな生活の対比であり、ジュエリーに光と闇の効果を求めた時代の幕開けだったのです。
参考 https://www.pinterest.jp/pin/428545720771868807/
アンティークジュエリーとフォイルバック
ジワリジワリと迫りくるジュエリーの変革は、そんな光と影に着目したジュエリーの区別に始まりました。つまり泥遊びや小鳥のさえずりを聞くのがメインの田園生活では、豪奢極まりないダイヤモンドのリングに、様々な宝石をドレスに直接縫い込んだストマッカーの出番は多くありませんでした。ただし昼間用のジュエリーとて、魅惑的であることそして流行の最先端を行くものを身に着ける必要があったことはいうまでもありません。例を挙げるならイヤリングにピアスはNG、そして好まれた宝石は淡水真珠、コーネリアン、アゲートやスモーキークオーツなどでした。
逆に毎夜開催される紳士淑女の社交の場、夜会では他人と競い合うかのような派手で美しいジュエリーで我が身を固めなければなりませんでした。そんな中大きなシャンデリアの炎の揺らめきに呼応するかのように輝くジュエリーは、ナイトジュエリーつまりは夜用のジュエリーとして大活躍を収めたのです。
歌舞伎町のキャバ嬢も真っ青になる盛りに盛った髪型に、ババロア型のシルクのドレス、そんな装いで、地味な庭園生活用の朝用ジュエリーじゃ物足りません。18世紀の舞踏会では特に、ローズカットのダイヤモンドが人気を博しましたが、エメラルド、アメジストにガーネットなどの蝋燭映えするジュエリーの出番も少なくありませんでした。
ここで重要になるのが、宝石の輝きを増す為に使用された金属箔の利用です。(フォイルバックと言います)箔とはつまりアルミホイルのようなもので、各宝石に呼応するべき色(トパーズなら薄いオレンジ、アメジストなら紫色)を宝石の下に敷きクローズドセッティングすることで、蝋燭に照らされた時の輝きを増長することが可能になるのです。
決して輝石に対してのみ箔が敷かれる訳ではなく、ダイヤモンドにも箔が敷かれ、それは美しく夜の社交界で美しく反射をしたことでしょう。現在伝わるジョージアンのアンティークジュエリーにも多くのフォイルバックされたジュエリーを見かけますが、箔の色が薄くなったり、酸化して黒ずんでしまったりと決していい状態のジュエリーは多くありません。しかしそんな状態でも、古のジュエリーが歩んだ年輪と思えば、また違った楽しみが出来ることでしょう。
参考 https://www.pinterest.jp/pin/568227677979715894/
フェイクジュエリーを活用するという選択肢
昼、夜用のジュエリーの使い分けの例として、本物ではないフェイクのジュエリーを活用するのもナイスアイデア!ここではフェイクの原料となるガラスの歴史を紐解きながら、フェイクジュエリーの人気の秘密についてご紹介したいと思います。
ペーストガラスのフェイクジュエリー
件の18世紀にも大衆向けのフェイクジュエリーは大変な盛況ぶりを見せていました。この時代厳密には、1700~1865年までのイミテーションの宝石たちは、ガラスとは言わずにペーストと言います。原材料こそガラスですが、現在作られているような安価なフェイクジュエリーと、ジョージアン時代に作られたガラスを用いたジュエリー(ペーストジュエリー)は全く異なる役割を担っています。
つまり18世紀のペーストは大衆向けとは言えど、宮廷文化に色濃く染まった貴婦人たちの美の共演にも寄与し、単なるガラスというよりは、ペーストというガラス素材に敬意の念が込められていたという訳ですね。(そもそもガラスとペーストガラスは成分が異なるので、似て非なる材料なのです。ペーストガラスは鉛ガラスに鉛の酸化物を混ぜて作られます。)
カットのしやすさや、光の反射率がダイヤモンドと同様とはいかないまでも、蝋燭の下でも存在感のある輝きを呈する為、多くはダイヤモンドの安価な代用品として使用されていました。また同じデザインのジュエリーを一方はダイヤモンドに高額な輝石を使って作成し、もう一方は全てをペーストガラスで代用したものがセットで作られ、お昼のお出かけまたは長旅時には盗まれても大丈夫なようにペーストのものを着用したりもしました。
18世紀はこれらのペーストガラスとそれに見合った研磨方法が発達し、そして様々な金属箔を併用することで、まるで本物と見間違うかのようなクオリティーのペーストジュエリーが作られていったのです。因みにジョルジュ・フレデリック・ストラスと呼ばれるフランス人宝石職人は、酸化鉛を用いたペーストを開発し、本物の宝石とは別にペーストジュエリーとして独立したジャンルを開拓した先駆者として知られています。
参考 https://www.pinterest.jp/pin/389491067746121463/
本物のダイヤモンドは勝負下着と同じ!
300年前のペーストガラスは現在のクリスタルとは根本的に異なりますが、ストラスと同様にイミテーションジュエリーの発展に寄与したのがオーストリアのクリスタルメーカースワロフスキーではないでしょうか?最も現在は模倣宝石よりも、キュービックジルコニアのような人工宝石の方が圧倒的な人気を誇りますが。
本物のダイヤモンドとほとんど変わらない屈折率を誇るジルコニアも、スワロフスキーの煌びやかに磨かれた大小様々なカラークリスタルも、TPOに合わせて使いこなせば、貴女の指に首元を華やかに彩ることは明白です。
ペーストジュエリーからコスチュームジュエリーの時代へと移り変わりましたが、人工ではあるけれどその輝くゴージャス感に目をつけモードに生かしたのは、他でもない時代の寵児である貴族や女優そして文化人だったことを忘れてはなりません。
本物と比べて安価だからこそのコストパフォーマンス、そしてダイナミックなデザイン、それはそれでフェイクジュエリーと言えど大きな魅力と言っても過言ではありません。ちょっとしたパーティに合コン、婚活には勝負下着ではないけれどそれなりのジュエリーを、そして普段使いの時は小ぶりで使いやすさ、付け心地をメインにジュエリー選びをしてみる。そんな日常生活のちょっとしたオシャレに、ペーストジュエリー、コスチュームジュエリーを選択してみるのも素敵だと思いませんか?
日常生活でエレガントとカジュアルを使い分けよう
最後にジュエリーの使い分けについての、素材や注意点についてまとめてみたいと思います。
朝~昼間はその素材の良さを実感できる素材を
例えば日本において強盗に身ぐるみ剥がされ、所持品もろとも全て盗まれてしまうなんてことは少ないと思います。18世紀のように外出で命を脅かされる出来事はほとんどないので、昼間からゴージャス極まりないリングにペンダントを身に着けても問題はありません。
しかし朝は朝の、そして昼間は昼間の優しい陽の光にあった、ジュエリーを選んでみてはいかがでしょう?ゴージャスな輝きよりも日中の光効果を最大限に楽しめる宝石、例えばアレキサンドライト、アクアマリンやペリドット、琥珀など。また宝石ではなくジュエリーのスタイルとして、カメオやインタリオなどのブローチを、胸元のアクセントに利用するのも素敵ですね。
あくまで自分の好みを軸にジュエリーを選びますが、上記のようなポイントを踏まえて、朝・昼間の穏やかな一時を楽しんでみましょう。
ナイトジュエリーはダイヤにパールがおすすめ
多忙な女性にとってジュエリーの使い分けは難しいかもしれませんが、お家に帰ってゴロンと何も考えずにボーッとしている時間にこそ、大切にしている宝石たちを愛でてあげてください。始めてのボーナスで購入した自分へのご褒美のダイヤリング、海外で衝動買いしてしまったブシュロンのリング、はたまたへそくりをはたいて購入したアンティークものなど。
夜に着用すべきナイトジュエリーの定義こそありませんが、小ぶりでも大ぶりのものでもダイヤモンドはナイトジュエリーの代名詞と言われているので、目の保養にもピッタリです。また月の満ち欠けによって異なるシラー効果が現れる、ブルームーンストーンのジュエリーを楽しむのも素敵ですね!
またロマンティックなレストランに会合などでシックに上品に決めたい場合は、その装いによってもジュエリー選びは異なりますが、やはり王道はパールジュエリーに尽きます。ただし一連、二連、そしてその粒の大きさによって与える印象は随分異なるので、同じパールでも使い方を間違えてしまうと、とんでもない大御所のような雰囲気を相手に与えてしまうので注意しましょう。
まとめ
今回は朝・昼そして夜と区別して付けるジュエリーの嗜み方と、18世紀の宝飾史のクライマックス部分を抜粋して紹介してみました。
一日の予定や天候、時間帯に合わせて、ジュエリーを変えるなんて面倒くさい!付けっぱなしが楽という方も多いと思いますが、服の着こなしを楽しむように、それぞれの宝石の輝き、性質を考えながら時間帯に応じて、付け替えるのも面白いので是非トライしてみてくださいね。
18世紀マダムの気分でペーストガラスで作られたカジュアルジュエリーでする、お散歩、泥遊びも、それはそれで風情があって素敵です!