アンティークジュエリーマニアとして「KAWAII!」と琴線に触れるジュエリーは、決して高価な作家物とは限りません。いつの時代も私たちの心を癒す動物、彼らの存在なくしてアンティークジュエリーは語れないのです!
という訳で、今回はアンティークジュエリーと動物の切っても切れない関係についてお話したいと思います。
アンティークジュエリーは動物抜きでは語れない!
モダンジュエリーのティファニーやヴァンクリーフ&アーペル、ブシュロンなども多くのアニマルジュエリーを制作していますが、アニマルジュエリーは宝飾史の中でもはるか昔に遡れる程の歴史を誇っているんです。
今回はそんなアンティークジュエリーの、可愛すぎる動物たちの軌跡をご紹介していきたいと思います。
アニマルジュエリーが作られた経緯と目的を考察してみよう
狼の牙がセッティングされたリング
アニマルモチーフのジュエリーは古代ローマ時代、更にはヘレニズム文化で盛り上がるエジプトでも、それは多くのアニマルジュエリーが作られてきました。数千年の歴史があると言っても過言ではないアニマルジュエリーですが、それらが作られた意図は製作者、注文主によっても異なります!なんて言ってしまうと元も子もないので、私なりにその経緯と目的を考えてみたいと思います。
一番多いと思われるのが、愛玩動物としてのペットを偲ぶ為のMourning Ringとして制作されたと考えてもいいでしょう。私たちがペットの遺骨をダイヤモンドに変えて身に付けるのと同様に、在りし日のペットの肖像を元にペンダントトップ、インタリオなどに思い出を託したのです。
次に考えられるのが、タリスマンつまりお守りとしてのアニマルジュエリーです。有名な一例を出すと、1250年頃に作られた大変素晴らしいリングがあります。そのゴールドリングには狼の歯がハート型にカットされ、リングの真ん中に鎮座。ブラウンの狼の歯はどこかタイガーアイのような様相ですが、古くから狼の歯は魔除けとして珍重されており、リングの内側にはこう記されています。
”buro+bero+berneto+”
これはつまり歯痛から身を守るマジカルなモットーであり、つまりはこのアニマルリングは歯の激痛から身を守る効果があると信じられていたのです。
そして最後は着用する目的ではなく、あくまで教会への奉納または外交上のプレゼントとして、活用されたことも考えられます。あまりの豪奢さに日常使いは出来ないデザインの盃だとか、バロック真珠とエナメルを駆使して作られたオブジェやネックレスなど……
それぞれの時代でアニマルジュエリーが果たした目的は若干異なりますが、様々な形で動物がジュエリーの世界で息づく。何世紀も昔のアートには私たちが想像し得ない、迷信や信仰、はたまた時を越えても分かち合える愛の形など、いろんな経緯で制作されてきたのです。
参考 https://www.pinterest.jp/pin/423408802438293914/
日本趣味がアンティークジュエリーに及ぼした影響
19世紀後半にヨーロッパにジャポニズムと呼ばれる日本趣味が大変な流行を呼びました。モネやゴッホなどの絵画を見てみると、そこに広がる日本の古き良き伝統、そして文化が然りと異国に伝わっていることに感動を覚えます。
1862年のロンドン万国博覧会や1867年のパリ万国博覧会で日本の浮世絵などの芸術作品が人気を集めると、その影響は画家達だけではなく多くのジュエリー作家にも影響を与えます。
特にヴィクトリアン時代後期からアールヌーボの時代には、ジュエリーに自然主義を反映させ、多くの動植物がジュエリーのデザインを構築してきました。そんなジュエリーの細部には日本趣味を伺わせる蔦や花、鳥が彫り込まれ、竹や桜などのモチーフも多様されています。
アシンメトリーのデザインに映える動植物、その枠組みの中には日本の家紋様だったり、日本の風景画に見られる植物が彫られていたり……この時代のジュエリーを見てみると、いかに日本が西欧に大きな芸術的影響力を持っていたのかが、よくわかりますね。
参考 https://www.pinterest.jp/pin/568086940469045692/
アンティークジュエリーの中に生きる可愛すぎる動物たち
ここではアンティークジュエリーによく見られる動物たちを例に出しながら、その真髄を紐解いていきたいと思います。
マダムに王侯貴族、職人が愛した動物まとめ
金銀、宝石が到底平民には縁がなかった時代に作られたアンティークジュエリーは、まさに贅沢の極みでありそして自己満足の道具でもありました。
お抱えのゴールドスミスにあれこれ注文を付けながら、最高の宝石と使えるだけの金銀を最大限駆使して作り上げたジュエリー。さて、彼らが作り出した芸術作品に見られる動物たちを見てみると……
イルカ、サソリ、トカゲ、豹、カエル、馬、犬、猫、うさぎ、獅子、燕、オウム、ラクダ、鹿、ペリカンにスワンなど、挙げても挙げてもキリがありません。
永久に誓う愛のスネークリング
代表的で大変分かりやすい例を出すと、イギリスのヴィクトリア女王は豪奢なジュエリーをアルバート大公からプレゼントされる訳ですが、特にお気に入りだったのが婚約指輪。現代日本のように大きなダイヤモンドのリングなんて短調なものでは勿論なくて、なんとエメラルドが輝くスネークリングだったのです。
なんだかヘビなんて不吉なイメージがありますが、実際のところ、「永久に誓う愛」を表すスネークリングはヴィクトリア女王の心の拠り所となっていきました。そして彼女が愛したスネーク柄はイギリス国民の人気に火を点けて、ヴィクトリア時代のジュエリーマーケットでは、ヘビ柄が一番HOTなアイテムとなっていったのでした。
参考 https://www.pinterest.jp/pin/859554278852607542/
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神話、キリスト教の世界から飛び出した幻獣たち
アンティークジュエリーに見られる動物たちは、決して3次元だけのものではありません。特に欧米のアンティークジュエリーは聖書の世界つまりはキリスト教や、神話などからモチーフを見つけてきては、好き勝手にジュエリーデザインに盛り込んでいます。
21世紀に住む私たちは幻獣というとロールプレイングの世界を想像しますが、それらの架空の生き物は大概、旧約聖書なり北欧・ギリシャ神話などに由来します。
その為ユニーコーン、ドラゴンにセイレーン、ネプチューンなどの想像力掻き立てられる幻獣たちも、古代ローマからヴィクトリアン時代まで、ジュエリーモチーフとして大変な人気を博しました。
存在し得ない幻想的な幻獣はアートを語る上で欠かせない要素になっており、それぞれに意味があります。それが単なるその時代時代の流行や個人の好みであったり、自分の星座を司る幻獣を彫り込んだり……時代が流れてしまった分、その幻獣が生まれた背景や意味が失われてしまい、現代に伝わらないケースもありますが、どちらにせよ私たちのロマンに火を付けることには変わりありません。
参考 https://www.pinterest.jp/pin/31103053658753736/
アニマルマニアはこのアンティークジュエリーをチェック!
アンティークジュエリーは現代の物と質も細工も異なり、身に付けるだけで、当時の社会や流行が見えてくる、そんな気がします。
さてそんなアニマルモチーフのアンティークジュエリーは、ペンダントトップやリング、ブレスレットなど様々に見られますが、アンティークだからこその巨匠の技が光る、そんなアニマルモチーフが多様されるジュエリーをご紹介したいと思います。
エセックスクリスタル
エセックスクリスタルはしばしリヴァースインタリオとも呼ばれ、クリスタル(水晶)を裏側からインタリオを掘るように彫り込み、そこに色を彩色したジュエリーを指します。
まるでガラスの世界に閉じ込められた1匹の動物がそこで息をしているかのように思えるのは、その卓越した立体感にあり!エセックスクリスタルに描かれるのは動物だけでなく、風景画や肖像画、自身のイニシャルなど様々で、注文主の思い思いの光景がそこには広がっています。
キツネ、フクロウの不機嫌そうな顔があったり、多分飼い主に可愛がられたのだろう犬や猫の愛玩動物まで、とにかく19世紀つまりはヴィクトリアン時代のイギリスでは、多くのエセックスクリスタルが作られました。まるで一つの絵画作品を見ているような、繊細な線と彩色が見る者の心を奪います。
参考 https://www.pinterest.jp/pin/542402348841191507/
スポーティングジュエリー
スポーティングジュエリーという分野のアンティークジュエリーにも、しばし動物たちが登場します。とは言っても、その名前から想像出来ると思いますが、スポーティングジュエリーとは主に釣り、狩り、ゴルフやランニングなどのスポーツを題材にしたジュエリーなので、動物はあくまで脇役での登場です。
特に20世紀のイギリスで流行したスタイルですが、上流階級の男性は優雅に乗馬にゴルフなどを嗜んだのでしょうね。スポーティングジュエリーに限っては、女性が楽しむというよりも、スポーツ好きな男性に支持を集めたジュエリーと言えます。
そして気になる動物は、イギリス人に釣られるお魚や乗馬の馬などが主なモチーフとして、現在もアンティーク市場に見られます。
参考 https://www.pinterest.jp/pin/517562182161988593/
ローマンモザイク
モザイクというスタイルはジュエリーだけでなく、しばし絵画作品としても用いられています。モザイクにも種類がありますが、特にローマンモザイクと呼ばれるローマ発祥の美しいガラス棒を敷き詰め、そのガラスのグラデーションでデザインを形成するというものです。
なんだか飴細工みたい!と思う方もいると思いますが、金太郎飴をポンポン切るみたいに、1つ塊から作品が2つも3つも生まれる訳では勿論ありません。
ローマンモザイクにはコガネムシや蝶などの昆虫もしばし目にしますが、その多くは真っ白な鳩、つまりは愛の象徴のモザイクが多く作られました。現代人の感覚からすると、いつも糞でフロントガラスが汚される憎き害鳥みたいな風潮がありますが、こうして小さなモザイクアートを見てみると、その愛くるしさに胸が苦しくなってしまいます。
参考 https://www.pinterest.jp/pin/257549672420786796/
インタリオ
一時期大変流行したジュエリーにブラックムーアのカメオというものがあります。カメオというのは貝や瑪瑙、岩石などに浮き彫りを施すことで、立体的に模様を浮き上がらせる手法です。反対に今回ご紹介するインタリオは逆で、沈み彫りで模様を刻み込むので、インタリオからは立体作品は生まれません。
インタリオは主にリングとして愛用され、王侯貴族、商人などの印章代わりとしても利用された、大変実用的に使われてきました。
古代ローマ時代からインタリオとして様々な模様が刻まれ、犬、猫、うさぎ、魚にサソリなどの動物たちがその例です。インタリオはカメオと違い、エメラルドやアメジスト、プラスマなど様々な輝石に彫られてきたので、1つ1つの存在感こそカメオには敵いませんが、輝石と文様のコントラストが何とも素晴らしい化学反応を見せつけます。
インタリオは見るだけでなく、粘土に押し付けると、立体的に像が浮かびあがるので、その小さなインタリオの繊細な彫りに惚れ惚れしてしまいますね。
参考 https://www.pinterest.jp/pin/378020962464279330/
ここでは動物が頻繁に登場するアンティークジュエリーに的を絞り、ご紹介してきました。この他にもネクタイやスカーフを止める為のクラバットピンや、象牙、べっ甲などに金銀等を象嵌したピクウェなどにも、しばし動物たちが登場しているので、気になる方はチェックしてみてくださいね。
まとめ
ワンちゃん、ネコちゃんの王道愛玩動物から、まさかのハエにあの空想上の動物まで……アンティークジュエリーという大きな宇宙には、人間の荒んだ心をほぐしてくれる、動物たちの優しさ・温かさが詰まっていました。
あなたのペット、星座、心がトキメク動物が主人公のアンティークジュエリーに出会ってしまったら、きっとそれは偶然という名の必然のはず。この世に1つしかないアンティークジュエリー、そしてそこに息づく職人が吹き込んだ1つの命、そんなロマンを楽しむことは、きっとアニマルセラピー以上の癒し効果が期待出来るのかもしれませんね!