宝石、またはジュエリーと関連付けられる街は世界的にも多く、身近なところで言うと水晶の街山梨、ダイヤモンド取引の街アントワープなどが挙げられます。しかし宝石を愛する者にとって忘れてはいけない町が、欧州の優等生ドイツにありました。

今回は小さな小さな街でありながら宝石研磨で名を馳せたイーダーオーバーシュタインについてお話してみたいと思います。なかなかドイツまでフットワーク軽く旅をすることができないという方も時空旅行を楽しんでみてくだい。

イーダーオーバーシュタインとは?歩んだ歴史を振り返る

ロマン街道にノイシュバンシュタイン城、ドイツは中世から途切れぬロマンが香る国。ふと通り過ぎてしまう小さな街に大きな大発見があることも少なくありません。

イーダーオーバーシュタイン、聞いたこともない街。そこはおとぎの国に繋がりそうな、とっても素敵な宝石の街でした。

瑪瑙鉱山とカメオで発展した街イーダーオーバーシュタイン

フランスとのボーダーにも近い人口3万人の小さなドイツ西部の街。日本で例えようにも、なかなか想像が付かない規模ですね……。イーダーオーバーシュタインはベルリンやミュンヘンのような大都市とは異なり、典型的なドイツのメルヘンな田舎町。

そんなイーダーオーバーシュタインは16~18世紀まで貴石で溢れた宝石の街として知られていました。現代ではアフリカやブラジルなどで採掘されるアゲート、ジャスパーなどの一大採掘地として名を馳せていたのです。

また街を流れるNahe川から提供される広大な水源は、多く採掘されたカーネリアンを研磨する為の切断用砥石を動かす言動力になりました。

時間が経つにつれて産出量が少なくなるカーネリアンですが、イーダーオーバーシュタインでは少なくなった原石をブラジルなどから取り入れることで、脈々と受け継がれた研磨術、彫刻技術を現代へとつないでいったのです。

取れる宝石こそ限られていましたが、イーダーオーバーシュタインは欧州においては原石採掘だけでなく、それらの適度に硬い宝石をカメオに加工していく技術が育まれ、現代までもカメオの聖地として呼ばれる程の名声を生んだのでした。

現在は最盛期の頃とは比べられない雀の涙程度のアゲート、ジャスパーなどが採掘され、後述しますが鉱山の見学も可能です。

宝飾産業として栄えたイーダーオーバーシュタイン、現在もジェムセンター、世界を代表する研磨の街として確固たる地位を保持しています。ドイツ宝石学協会もイーダーオーバーシュタインに位置し、毎年インターナショナルジェムフェアが行われ多くのバイヤーで賑わいます。

宝石研磨、加工の魔術師が生んだムーンシュタイナーカット

私達がなんの変哲もなく身に着けているジュエリー、そこに輝く宝石がどのような手順を踏み、その立体形が出来上がり面をつけていくのか?そして研磨を施す鉱物の硬度、劈開性にインクルージョンを計算して最もその原石を活かせる研磨を施すか、数学的思考だけでなくアーティステックな手腕も試されるのが宝石研磨師の仕事です。

最初のめのう採掘に関する文献が登場するのが1375年、そこから遡ればいかに長い間めのうがイーダーオーバーシュタインの人々の生業になっていったかを想像することができますね。

イーダーオーバーシュタインでは創業が17、18、19世紀まで遡ることができるような宝石加工業者が現在も稼働し、アゲートに関わらず様々な宝石を研磨し、カメオ作品作りには定評があります。

数百年を超える宝飾加工場、宝飾店が軒を連ね、その一つ一つが一種独特で芸術作品ともいえる宝石を日々扱っていますが、昨今特に話題を呼んでいるのがアトリエ トムムーンシュタイナー。

ムーンシュタイナー家によって生み出された斬新でモダンなカット技術は、流石はマイスター制度が息づく国の伝統がなせる業。日本の甲府でもサクラインカットなどの裏面から研磨を施すカットがありますが、ムーンシュタイナーカットも表面ではなく裏面から研磨をするカット技術です。(ファンタジーカットとも呼ばれます。)いかに各々の宝石の屈折率、複屈折率を考慮しながら、本来の輝きプラスαの幻想性を宿せるかが、視覚を刺激する斬新さを生むカギになっています。

ムーンシュタイナー一家のアトリエで生み出される研磨宝石の数々は半貴石の物が多く、まるで一つの意思を持った生き物が宿っているかのようなルースが日々生まれ、そして宝飾品として加工されていくのです。

なお大きな名声を生んだのが、1万カラットを超える大きさのアクアマリンにムーンシュタイナーカットを施したドンペドロ。遥かな海を越え、現在は米国のスミソニアン博物館に所蔵され、同館の所蔵作品として大きな存在感を放っています。

イーダーオーバーシュタインには、ムーンシュタイナーカット産みの親であるムーンシュタイナー家のアトリエがあり、ここで世界中のブランド、メーカーとコラボ予定の宝石たちが日々研磨されていくのです。もしお時間がある際は、アトリエ・トム・ムンシュタイナーに足を運んでみるのもいいでしょう。

ドイツの小さな宝石街!一度は行きたい観光名所まとめ

ぶらり途中下車の旅で、イーダーオーバーシュタインでたまたま駅を降りてみたら素敵!という流れにはなかなかいかないはず。

だからこそそこに何があり、どんな体験ができるのかを事前に把握してから訪れることがミソなんです。ここでは特に押さえておきたい観光ポイントをご紹介したいと思うので、ドイツ旅行を考えている方は要チェック!

スタインカウレンブルク鉱山

メルヘン街道、古城街道などトラベル欲求を刺激して止まないドイツ。今回お話しているイーダーオーバーシュタインは、やはり宝石街道という形容がピッタリです。

街を歩けばあちこちに宝飾店が連ね、週末になるとプロの研磨師によるワークショップが行われるドイツ一の宝飾街。

さて過去には多くのアゲート、ジャスパーが採掘された鉱山を要していたイーダーオーバーシュタインですが、スタインカウレンブルク鉱山では観光客も見学が可能です。

このような形で一般に開放されている鉱山は世界でも極力少なく、世界中から石マニアが集まことは言うまでもありません。

再度復興する程の採掘量こそありませんが、今でも近郊に住む子どもたち、または観光客が必死にお宝さがしをする姿を目にすることでしょう。

http://www.edelsteinminen-idar-oberstein.de/precious-stone-mine.html

ドイツ貴石博物館

もはや街が宝石とジュエリーで出来ていると言っても過言ではない、それらが経済を回している、そんな光物好きには堪らない街イーダーオーバーシュタイン。

街中で高級ジュエリーにさざれ石、パワーストーンもどきのアクセに立派な彫刻、それらを見ているだけでも目の保養になりますが、ドイツ貴石博物館は見逃してはならないスポット!

小さなシャトーを思わせる博物館には、イーダーオーバーシュタインの歴史を遡れるような宝石採掘の歴史、そしてどのように当時の人々が宝石研磨に従事していたのかがわかりやすく展示されています。特にイーダーオーバーシュタインの研磨産業に関する解説は14世紀からモダンまでを懇切丁寧に解説!

1万を超えるレアな貴石群はイーダーオーバーシュタイン、その周辺地域で採掘されたものだけではなく、世界規模の珍しい宝石を一堂に集めた内容になっています。アゲートなどのそれは立派な標本、昆虫を模した彫刻、数百年前に彫られた芸術作品というべきカメオは見物です。

この他にもイーダーオーバーシュタインの宝石彫刻家の作品や、この手の博物館には必ず点在している大きめの晶洞、天然石だけでなく合成石や昨今発見された希少鉱物の展示も要チェック!

英語による解説が一部分しかないことが残念ですが、鉱山ツアーと共にぜひ訪れてほしいイーダーオーバーシュタインで外せないスポットと言えるでしょう。

http://www.edelsteinmuseum.de/

まとめ

ひっそりと佇みながらも、脈々と次世代に受け継がれていく宝石研磨技術と鉱山で大きな産業を生んだ街、それがイーダーオーバーシュタインという街。

15世紀、今から600年以上前からめのう採掘の鉱夫で賑わいをみせ、世界の宝石、ルースが集まり、国際宝石見本市も開催されているというまるでおとぎの国のような場所。

特に宝石の勉強をしている方、研磨や宝飾関連の仕事に従事している方にとっては、老舗の宝飾店舗を覗いたり、前衛的な研磨技術とその歴史に触れることができる至福の場になるはずなので、ぜひ訪れてみてくださいね!