宝飾品に使われるガラス素材と言えば、やはりコスチュームジュエリーでしょうか?貴石や半貴石がセッティングされたジュエリーばかりを目にしていると、ガラス製のジュエリーが玩具のように見えてしまうかもしれません。

しかしガラス、ペーストガラスを使ったジュエリーは特にコレクターが多いことで知られています。今回はその中でも、アンティーク、ヴィンテージリング、イヤリングによくみられる、ミステリアスなガラス素材、サフィレットガラスについてお話をしていきたいと思います。

アンティーク、ヴィンテージでよく見かけるサフィレットガラスって何?

サフィレットガラス、皆さんの中でも聞いたことがあるという方もいるかもしれません。このネーミングから想像できるように、サフィレットガラスは鉱物ではなく人為的に開発された変色ガラスのことです。

19世紀半ば~1950年代に作られたジュエリーに多く使われており、宝石とはまた異なるブワッと視界に飛び込む謎めく輝きは、唯一無二のオリジナリティーを感じずにはいられません。

ここではまずサフィレットグラスとは一体なに、という基本的な疑問から、その製法について解説していきたいと思います。

チェコが生んだ幻のガラス、サフィレットガラス

サフィレットガラスについての情報は、インターネット上でも、決して多くはありません。アンティーク、ヴィンテージジュエリーディーラーでもサフィレットガラスを知らない者もいるくらいです。

サフィレットグラスは1860年~1940、50年頃まで、チェコのヤブロネッツ地方で制作されたボヘミアンガラスの1種です。ブラウンとブルー、ピンクを混ぜたようなシラー効果がある一種独特なカラーで大変な人気を博しました。

サフィレットガラスはその軸になるレシピは存在していたものの、各工房で原材料の配合は若干異なり、その制作方法は外部に伝わることなく各工房で内密に制作されてきました。ある成分調査ではサフィレットガラスに含まれる成分は、鉛、ケイ素、カリウム、銅、鉄が検出されたと報告されていますが、現在までもその正確な手法はわかっていません。

特に日本はサフィレットガラスのコレクターが多いことでも知られており、サフィレットガラスが多く取引されています。サフィレットガラスの制作が盛んであった19世紀後半、つまりはヴィクトリアン後期、アーツ&クラフト、またはエドワーディアンの時代にサフィレットガラスはジュエリーを構成する1つのピースとして多く使われてきました。

貴石や半貴石のようにゴールドやプラチナなどの貴金属にセットされることは少なく、通常は真鍮や金メッキを施したメタルが利用されていることも、サフィレットジュエリーの特徴です。現在は安価な中国製のガラス製品などがサフィレットガラスとして流通することもありますが、古のオリジナルサフィレットガラスをモダンジュエリーにセッティングし直したものも多く見られます。

因みにサフィレットガラスは様々な形状に研磨されていますが、多くはその輝きを活かすためにファセットカットが施されています。またベゼルの裏側に銀箔を置き光の透過光を開けずにセットするクローズドセッティングで留められているジュエリーも少なくありません。

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謎めくその製法とは?あの毒物が使われているって本当?

サフィレットがコレクターの購買欲という導火線に火をつけるのが、既にオリジナルのクリスタルガラスを制作できないからに尽きます。サフィレットガラスの制作が途絶えた時期は諸説ありますが、サフィレットガラスが制作されなくなった理由はただ1つ。

そう、その製造には非常にコストがかかるからです。

皆さんも画像を見ていただければわかりますが、何色か?と形容するのが難しい、青?緑?ブラウン?ピンク?覗く角度、光が当たる角度により、全く異なる表情を見せてくれる秘密。それはサファイア様のガラスにゴールドを配合しているからだと言われています。

金が制作過程に必要になるとなれば、その制作コストの膨大さはもはや想定内ですね!特に1900年前後に作られたサフィレットガラスは、深い味わいのあるピンク色を呈している物が少なくありません。これは最も質のよいサフィレットガラスと考えられ、含有するゴールドの量が多いことに起因します。

しばしサフィレットガラスを購入することはリスキーと言われることがあります。それは魅惑的なカラーの秘密は、配合されているヒ素にありと伝えられているためです。ただし現在はヒ素の混入ではなく、金を使うことでその色合いを出していると考えられています。

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元祖サフィレットガラスと似て非なるガラスの正体

ガラスを利用した宝飾品は、ジュエリーというよりはアクセサリーに収まる場合がほとんどかもしれません。しかしサフィレットグラスを利用したそれは、それこそ数十万単位で取引されることも少なくないくらいの希少性を持ったジュエリーとして、コレクター眉唾アイテムとして認知されています。

さてそんな失われたガラス、サフィレットガラスですが、実は非常に似通ったガラスがあるのをご存知でしょうか?ここではサフィレットガラスと混同しやすい、それらの二次サフィレットガラスについて解説していきたいと思います。

西ドイツのサフィリーン

サフィレットガラスを模して造られたガラスをサフィリーンと呼んでいます。サフィレットガラスとサフィリーンはしばし混同されがちですが、あくまで本家はチェコで作られたサフィレットガラスであり、後発のサフィリーンは西ドイツで作られたものです。

製造が開始された正確な年代はわかっていませんが、おおよそ1950年代、チェコのサフィレットガラスの製造が終了した時期と考えられます。

サフィリーンは特に銅の含有量が多いと考えられ、サフィレットガラスよりも色あせて見えるのが特徴です。色合いはサフィレットガラスよりも、ライトな藤の花のようなカラー、このような形容が適切でしょうか。

またサフィレットガラスは前述のように深いピンキッシュな色合いを見せることがあり、そして含有している金の重みが感じられること、これらもサフィリーンとの相違点と言えます。しかしサフィリーンとサフィレットガラスは光の当たり具合、フォイルバックがされているか否かで、その識別が困難になることも多く、サフィレットガラス人気が高い日本では、多くのサフィリーンがサフィレットガラスと称し売られていることも多いのです。

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アイリスガラス

サフィレットガラス、サフィリーンと同様に、またしても類似したクリスタルガラスがあります。こちらもチェコやドイツで作られたもので、レインボークォーツを模したアイリスガラスといわれるものです。

19世紀後半から製造されてきましたが、特にコスチュームジュエリーとして50年代以降に人気を集めました。こちらはサフィレットガラスとはまた異なるグラデーションを持つガラスでブルー、グリーン、ピンクなどの異なるカラーがまるで虹を閉じ込めたかのようにみられるのが特徴です。

なおアイリスガラスのアイリスとはギリシャ神話における女神IRISから取られています。

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ドラゴンブレス

なんだか強靭なネーミングですが、こちらもサフィレットガラスとしばし混同されてしまうガラスの一つです。ドラゴンブレスは灼熱の赤と紫、青の共存が確認される、ドラマティックなクリスタルガラスのことを言います。

光の角度によりドラゴンの炎、またはその竜鱗のようなシラーが見えますが、その秘密はガラスを構成する層が2層になっているからだと思われます。なお独特のカラーグラデーションからメキシカンオパールとも呼ばれ、ハンドメイド用のルースパーツとしても多く流通しています。(勿論メキシコ産の天然オパールではありません。)

こちらのクリスタルガラスも1950年前後に製造されたもので、古いものはヴィンテージガラスとして取引されていますが、そのほとんどは現代のメーカーが製造したモダンの物で市場価値はサフィレットガラスとは比べられません。

ここでは特にサフィレットガラスに類似しているクリスタルガラスをまとめてみましたが、この他にも日本ではガラス食器やランプなどが製造されたウランガラス、カラーチェンジが楽しめるアレキサンドライトガラス、ガーネットのような深紅の赤色~黒でフォイルバックしたヴォクソールガラスなど、様々なクリスタルガラスが作られてきました。

それぞれ似たようで異なる色合い、原産地であり、宝石とは異なる魅力があるクリスタルガラスとして人気を集めています。たかがガラス、されどガラス、その唯一無二の魅力というものは、活字に写真ではなかなか伝わらないものなので、ぜひ手に取って頂きその輝き、カラーを楽しんでみてはいかがでしょうか?

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まとめ

今回はサフィレットガラスについてお話してきました。もはやオリジナルのサフィレットガラスが製造されていないという事実から考察すれば、非常に貴重なクリスタルガラスと言えます。

サフィレットガラスの値段はそれこそ数千円の物からウン十万円のものまでピンキリですが、一度あの不可思議なカラーシラーを見てしまうと、どっぷりサフィレットの魅力に憑りつかれてしまう方も少なくありません。

最後にサフィリーン、そして近代のフェイクガラスとの見分けはプロでも難しいと思われるので、本物のサフィレットガラス購入を考えている方は、知識と販売実績が高い業者から購入することを強く推奨いたします。